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人間国宝3人の文楽「妹背山婦女庭訓」を観る

2019年05月24日

今回の舞台はいつもの文楽とだいぶ趣向が異なっていた。
なんといっても、3人の人間国宝「蓑助(人形遣い)」「清治(三味線)」「和生(人形遣い)」が一同に会するのだ。おまけに5時間以上の通し舞台は初体験。
人間国宝3人の文楽「妹背山婦女庭訓」を観る

いつものように前列(今回は4列目)で、太夫や三味線を真横に見ながら、舞台で息づく人形たちを見つめていた。
びっくりしたのは、「妹山背山の段」。この舞台は特別な浄瑠璃で、なんと、舞台に向かって左右ふたつの場所に、太夫と三味線のための「出語り床」が設けてあったのだ。
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二組の床「脊山(せやま)」と「妹山(いもやま)」の太夫と三味線が互いに火花を散らしてぶつかり合う。左右から太夫と三味線が流れるなんて、なんともぜいたくな舞台だった。最後はお互いに解け合って、合奏するという迫力いっぱいの舞台だった。

もちろん、今回の文楽は大入り満員。蓑助が出てくると盛大な拍手が湧く。85歳を超えた蓑助は舞台から退出する時、両脇を黒子にかかえられて退場した。繰る人形「雛鳥(下の画像)」の頭(かしら)が下がってしまって、「ハッ」とした場面もあったが、観客は多分、人形ではなく、蓑助を見に来た方たちのほうが大方だったのだろう。
人間国宝3人の文楽「妹背山婦女庭訓」を観る

和生も好きな人形遣いだが、やっぱりわたしにとっての見どころは大好きな勘十郎だ。恋仲だと思っていた男が他の姫の元へ逃げ、その男を追って、一途に男を想い、男のために命を投げ出すお三輪(下の画像)という可憐で悲運な女性は勘十郎の「はまり役」に見えた。
人間国宝3人の文楽「妹背山婦女庭訓」を観る

小さなお三輪の身体の隅々から、恋心や辛さ、悲哀、憤りがふつふつと湧き上がる。他の人形たちの会話の時でさえ、お三輪は肩で息をし、勘十郎は小さな身体に次第に消えゆく不運な運命の息吹を吹き込み続けていた。わたしの目はお三輪に釘付けだった。今まさに、66歳の勘十郎は熟練したワザを自在に繰る円熟期の真っ只中なのだ。

2代目桐竹勘十郎の子として誕生し、吉田蓑助に師事し、3代目の勘十郎を継ぎ人形遣いになるべくして、生まれた「勘十郎」。いつまでも勘十郎を見守り続けていけたらなと思う。

また、力強い声と女の艶のある語り口を披露してくれた太夫「豊竹呂勢太夫」は聴いていて心地よかった。なんといっても、歌舞伎役者にしたいほどの容姿がよい(おい)。
人間国宝3人の文楽「妹背山婦女庭訓」を観る

購入した今回のパンフレット(700円・下の画像)にちょうど呂勢太夫のインタビューが載っていた。
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呂勢太夫が初めて国立劇場の文楽を観たのが8歳というからまず驚く。8歳にして、すっかり文楽にはまってしまったというのもすごい。三味線の清治にも師事していて、今回も、隣には三味線の清治が淡々と三味線を弾いていた。途中、清治の三味線の糸が切れたようで、三味線をひざ元に横たえ、何事もないかのように糸をかける清治の舞台姿は凛としていて、しびれてしまった。

清治がよく呂勢太夫に言うという言葉がインタビューに載っていた。
「三味線なんか気にしなくていい。自分の義太夫をきちっと語っていれば、三味線は自然に(義太夫に)はまっていく。まずは自分の表現したい世界を持て」とのこと。
テレビ番組で芸に厳しい清治の姿を見たことがあるが、三味線弾きが文楽の音楽のプロデューサーだということがよくわかる言葉だ。

もうひとつ「竹本千歳太夫」のインタビューも掲載されていた。
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今回、手が届きそうな距離で千歳太夫が語り、その太くて力強い声が迫力いっぱいで、反対側の「出語り床」の呂勢太夫の声が距離の関係なのだろう、幾分か、千歳太夫に負けていた。ま、それぐらい、千歳太夫の声は鳴り響いていた。
とてもじゃないが、今年還暦を迎える人の声ではなかった(^^)。千歳太夫もまさに今が円熟期なのだろう。

5時間の間、国立劇場の座席に座り続けたが、今回は一度も咳が出なかった。それぐらい、舞台に熱中できたのだと思う。
観たのは第二部の夜の部で、6つの段の舞台だったが、途中の段で、声の出ない若い太夫が2人ほど続いて、思わずコケた。あんなに声も出ない太夫を国立劇場に出してはマズイのではないかと思う。

人形遣いは足遣いで10年、左手で10年という修行が長い芸。だからなり手も少ないだろうが、舞台に出た時は、それなりの技量がある。三味線も技術なので、長い修行が必要だから舞台で観た三味線弾きでヘタだなぁと思った人は今までいなかった。

その点、太夫は声だけが武器。だから、修行が他の技能に比べて短いのかなと思う。それにしても、全体がすごくよかっただけに、あの二人の太夫は水を差す感じでいただけなかった。彼らにとって、今回の失敗が今後、役立ってくれることを願うばかりだ。

帰りは国立劇場から新宿行きのバスが出ていて、便利なので、いつもそのバスを利用する。車中でのnabeさんとのおしゃべりは文楽一色で思い切り弾んで楽しかった(^=^)。
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Posted by kamome at 14:23│Comments(0)
 
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